株式数という分母
アドビの第3四半期純利益は前年同期比3.1%増だったが、1株当たり利益は10.5%増えた。計算に使った株式数が4億2,400万株から3億9,500万株に減ったためだ。MiroとMyrealtripの買収発表、AMD四半期報告書のワラントまで、1株の取り分が変わる場面を同じ割り算でたどる。
ブリーフ全文
会社全体の価値が変わらなくても、株式数が変われば1株に回る取り分は変わる。最近の買収発表や決算開示には、この割り算の上と下が別々に動いた場面がいくつも出てくる。会社の価値を何で数えたか、対価を何で払ったか、株を買い戻したか、条件付きで約束した株式がどれだけあるかを、順に分けて見ていく。
値札に書かれた二つの価値#
事業の価値と株主の取り分
Bending SpoonsによるMiro買収の発表では、価格が2行に分けて書かれた。MiroのCEOは社員向けメモで、企業価値は現金と負債を反映する前の事業そのものの価値、株式価値は株主に渡る取り分だと説明した。両者の差を埋めるのは、会社が持つネットキャッシュだ。8月に発表されたAirtable買収でも、二つの数字が並んで出ている。
13億5,500万ドルと約17億9,000万ドル#
間にあるのはMiroのネットキャッシュ
Bending Spoonsは9月10日、Miroを企業価値13億5,500万ドルで買収する契約を結んだと発表した。Miroのネットキャッシュを加えた株式価値は約17億9,000万ドルだ。TechCrunchはMiroのネットキャッシュを約4億3,500万ドルと伝えた。取引は規制当局の承認などを経て、2026年第4四半期に完了する見込みだ。
open_in_newstartupxo.com/ko/news/2026/09/miro-bending-spoons-arr-multiple年間経常収益の約2.3倍#
黒字で運営されてきた会社に付いた倍率
Bending Spoonsは、Miroの年間経常収益(ARR)が約6億ドルで、その90%近くが法人顧客から来ていると明らかにした。企業価値13億5,500万ドルをこの値で割ると約2.3倍になる。MiroのCEOは社員向けメモに、会社が黒字で運営されてきたと書いた。今回の発表資料に売上の成長率は出てこない。
Airtableは2.7倍前後#
8月4日に先に出た比較対象
Bending Spoonsは8月4日、Airtableを現金12億8,000万ドルで買収すると明らかにした。ネットキャッシュを反映した評価額は約22億5,000万ドルだと付け加えた。2026年6月時点の年間経常収益は約4億8,000万ドルで、前年から20%以上増えている。買収額をこの値で割ると2.7倍前後になる。
対価を株式で払うと#
売る側の株主が買う側の株主になる
買収対価を株式で払う場合、買う側の会社は新株を発行するか、保有する自己株式を渡す。買われた会社の株主はその株式を受け取り、買う側の株主になる。新株で払った分だけ買う側の株式数は増え、受け取った取り分の価値はその後、買う側の株価に連動する。一つの取引の中で現金と株式が混ざることもある。
2億9,500万ドルは新株へ#
全額現金の取引に混ざる株式
Miro買収は全額現金の取引として発表された。ただしMiroの一部株主は、受け取る代金のうち2億9,500万ドルを、Bending Spoonsが新たに発行する株式に投資することにした。Bending Spoonsはナスダック上場企業なので、この取り分の価値は完了後の株価によって変わる。この投資も買収と一緒に、完了条件と承認を経る。
Creatripの株主はMyrealtripの株主になる#
9月11日の取締役会が選んだ株式交換
韓国の旅行プラットフォームMyrealtripは、9月11日の取締役会でCreatripの株式全量を取得する議案を可決した。方式は株式交換で、残りの手続きを経て年内に子会社化する計画だ。MyrealtripはCreatripに2024年に戦略的投資をしている。報じられた発表には、買収金額も株式の交換比率も含まれていない。
open_in_newstartupxo.com/ko/news/2026/09/myrealtrip-creatrip-inbound-share-exchange発行済株式総数の10%#
株主総会を取締役会の承認に代える基準
韓国商法は、株式交換をする会社に契約書を作成し、株主総会の承認を得るよう定めている。完全親会社となる会社が株式交換で発行する新株と移転する自己株式の合計が発行済株式総数の10%以下なら、取締役会の承認で代えられる(第360条の10)。別に渡す金銭などが純資産額の5%を超える場合、この方式は使えない。
自社株を買い戻すと#
EPSの伸びが純利益の伸びを上回る
1株当たり利益(EPS)は純利益を株式数で割った値だ。会社が自社株を買い、計算に使う株式数が減れば、EPSの伸び率は純利益の伸び率より大きくなる。アドビの2026会計年度第3四半期では、二つの伸び率が3.1%と10.5%に開いた。買い戻しに使ったお金は、同じ四半期のキャッシュフロー計算書に別に載っている。
純利益3.1%、EPS10.5%#
分母は4億2,400万株から3億9,500万株へ
アドビの2026会計年度第3四半期の純利益は18億2,700万ドルで、前年同期の17億7,200万ドルから3.1%増えた。同じ期間、希薄化後EPSの計算に使った株式数は4億2,400万株から3億9,500万株に減った。希薄化後EPSは4.18ドルから4.62ドルへ10.5%上がった。二つの伸び率は、発表資料の四半期の数値から計算した。
open_in_newinverseone.com/ko/stock/ADBE営業キャッシュの88%が自社株買いに#
1四半期で約950万株
アドビは第3四半期に約950万株を買い戻したと明らかにした。キャッシュフロー計算書の自社株買い額は22億3,200万ドルで、同じ四半期の営業活動によるキャッシュ25億2,300万ドルの88%にあたる。前年同期は、営業キャッシュが21億9,800万ドル、自社株買い額が20億5,700万ドルだった。
第4四半期の前提は約3億8,900万株#
業績目標には株式数が付いてくる
アドビは第4四半期のGAAPベースの希薄化後EPS目標を4.65〜4.70ドルとした。この目標は希薄化後株式数を約3億8,900万株と仮定した値で、第3四半期に使った3億9,500万株より少ない。通期目標に付いた前提は約4億株だ。1株当たりの目標には、純利益の見通しと株式数の前提が一緒に入っている。
まだ発行されていない株式#
条件付きの約束は注記に書かれる
ワラント(新株予約権)は、決められた価格で新株を買える権利だ。条件を満たして確定し、実際に行使されるまでは、発行済みの株式ではない。AMD四半期報告書のEPSの表にはこの権利が別に出てこず、最大株式数と確定条件、期限は注記に書かれている。規模をつかむには、この三つを合わせて読む必要がある。
0.01ドルで最大1億6,000万株ずつ#
OpenAIとメタが受け取ったワラント
AMDは2025年10月にOpenAIへ、2026年2月にメタへ、それぞれ1株0.01ドルで最大1億6,000万株を買えるワラントを発行した。両社はそれぞれ最大6ギガワット規模のAMD製データセンターGPUを導入する計画だ。権利はGPUの購入段階と株価目標に応じて分割して確定し、確定した分も技術面と商業面の条件を満たさなければ行使できない。
open_in_newinverseone.com/ko/stock/AMD6月27日までに確定した株式はない#
希薄化後株式数に加わったのは2,700万株
四半期報告書は、6月27日までに確定または行使可能になったワラントの株式はなく、財務諸表への影響もなかったと記している。同じ四半期の希薄化後EPSは、基本株式数16億3,200万株に従業員株式報酬による2,700万株を加えた16億5,900万株で計算された。行使期限はOpenAI分が2030年10月5日、メタ分が2031年2月23日だ。
3億2,000万株と110万株#
条件付きの新株と買い戻した株式
二つのワラントを合わせた最大3億2,000万株は、第2四半期の基本EPSの計算に使った16億3,200万株の19.6%にあたる。AMDが上半期に自社株買いプログラムで買い戻した株式は110万株、2億2,100万ドル分だ。買い戻し枠140億ドルのうち、6月末に残っていたのは92億ドルだった。
同じ名前、違う基準#
割る前に分子をそろえる
割り算の上に置く数字の基準が違えば、株式数を見ても比較がずれる。資金調達ラウンドで付いた評価額と、買収発表の企業価値は別のものを指している。EPSも、会計基準の数字と会社が調整した数字が一つの発表資料に並んで載る。どちらを基準にするかで、下落幅も伸び率も変わる。
見出しは90%、本文は92%#
175億ドルと何を比べたのか
Miroは2022年1月に4億ドルのシリーズC調達を発表し、175億ドルと評価された。TechCrunchは今回の買収記事の見出しで2022年の評価額より90%低いと書き、本文では92%の下落とした。企業価値13億5,500万ドルで計算すると約92%、株式価値約17億9,000万ドルで計算すると約90%になる。
GAAP4.62ドル、非GAAP6.13ドル#
分母は同じで分子が違う
アドビの第3四半期発表資料の冒頭には、希薄化後EPSがGAAPベースで4.62ドル、非GAAPベースで6.13ドルと並んで書かれている。どちらも3億9,500万株で割った値だ。非GAAP純利益24億2,400万ドルは、GAAP純利益に株式報酬と繰延報酬の費用5億4,400万ドル、無形資産の償却5,800万ドルなどを足し、投資利益などを引いて求める。
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